B to B の事業におけるマーケティングの戦略立案あるいは施策立案をする際、リード・商談・成約の各フェーズは因果関係ではなく相関関係にあるということを理解し、営業担当と認識を共有しておくことが、その後の施策の実施や効果測定で重要になる。
1)3つの陥穽
①因果関係と相関関係を混同する
一般的にB to B 事業においては、集客から成約までを上記の画像にあるフローを辿る。これらリード獲得・商談化・成約の各フェーズは、「相関関係」にあるということを抑える必要がある。
相関関係とは、2つの物が密接に関わり、一方が変化すれば他方も変化するという関係をいう。集客から成約のフェーズにおいては、リード獲得と商談化、商談化と成約のそれぞれのフェーズは密接な関わりがある。しかし、獲得するリードが増えたからといって、必ずしも商談数が増えるとは限らない。なぜならば、リードとは商品や契約への意識が千差万別だからである。したがって、リード獲得と商談化、商談化と成約のそれぞれのフェーズは相関関係にあると言えるだろう。
それに対し、因果関係とは、文字通り「原因と結果」という関係である。例えば、web広告を運用して、webサイトへの流入や問い合わせが増えたとすれば、それは因果関係にある。
この「相関関係」と「因果関係」についての理解が前提になければ、次に説明する各施策の効果に対する認識のズレが生じるのは当然である。
②施策の効果に対する認識のズレ
前述の「相関関係」と「因果関係」についての理解不足に起因する施策の効果に対する認識のズレは、ダイレクトに現場の担当者のモチベーションに影響してしまう。例えば、営業担当者は成約数をいかに伸ばすか、そのための商談数をいかに増やすかということに職責を負っている。
一方、マーケティング担当者は第一義的には集客を求められ、いかにリードを獲得するかということに注力するわけである。そもそもリードとは、見込み客を意味する。具体的にはwebサイトを訪れ、資料請求や問い合わせなどをしてくれる人を指す。ここに至る経緯は様々で、広告をみてそのサイトを訪れた人もいれば、検索をしてたどり着いた人もいる。さらに、検索をしている人は他の競合サービスを独自にリサーチして比較している人もいるだろうし、なんとなくこんなサービスがあったらいいなという感じで調べ、たまたま辿り着いたという人もいる。
もちろん自社のオウンドメディアを訪れてくれるわけであるから、ある程度商品に関心があると思っていいだろう。しかし、その必要性や価値を正確に理解していない場合が多い。
他方、営業が担うのは成約数であり売上である。商品の購入・契約に前向きなお客さんといかに商談数を稼ぐかというのが成約数に直結してくるわけである。従って、営業側からマーケティングに求めることは「商品の購入・契約に前向きな見込み客(=ホットなリードと言われる)」とのマッチングということになるのだが、そもそもリードとは関心度が高くないからリードなのである。ここで、両者の認識の齟齬が生まれる。
この営業担当者とマーケティング担当者の両者にある認識の齟齬がなくならないと、いくら集客施策を立案しても、あるいはその施策がうまく行ったとしても、営業担当者からは「リードは増えたけど商談数は増えてないよ。施策としてどうなの?」という形で、評価されない危険性を孕むことになり、負のスパイラルへの道を歩むことになる。
③ナーチャリングという考え方
そこで、重要なのが「ナーチャリング」である。リード・ナーチャリングすなわち獲得したリードを顧客化するまでに育成していくわけである。このリード・ナーチャリングなしに商談化を狙うのは、まるでホールインワンを狙うようなものである。
営業担当者の立場からすると、商品の購入・契約に前向きなお客さんと商談をすれば成約数を増やすことができると考えるのは当然である。しかし、獲得したばかりのリードは前述の通り、資料請求や問い合わせに至るまでの経緯は千差万別である。従って、自社サイトを訪れてすぐに商談に応じ、スムーズに成約に至るリードを獲得するというのは、非常に稀有であると思っていい。
本来であれば、このナーチャリングはマーケティングの領域でもあり営業の領域でもあるから、双方が協力する必要があるが、一般的にリソースが限られる中小企業においては、後回しになりがちである。そうすると、せっかくリードを獲得しても、なかなか成約に至らないという状況が解消されず、マーケティングも営業もなかなか苦労が報われないという残酷な結果となってしまう。
もちろん、自社サイトを訪れる前の段階で競合他社との比較をしてもらった上で自社サイトに訪れてくれるリードを作るというやり方も存在するが、人員も予算も限られる事業会社においては最善策ではない。そこで、リード獲得の施策と合わせてナーチャリングの方法も検討し、営業とマーケティングの認識をすり合わせておく必要がある。
2)現状分析とビジョンの提示
リード獲得をするマーケティングも、商談をする営業も、向かうべきところは事業の売上の増加に寄与するというのは一致しているはずである。それにも関わらず、なかなか成果にならないとするならば、前述のようにリード獲得と商談の間にある相関関係とナーチャリングの観点、それを前提とした具体的な方法についてを議論する必要が出てくる。
そしてその議論と目指すべきゴールの方向性を提示するのもまた、マーケターの大切な仕事であると思う。加えて、これらを相手にしっかりと伝えるコミュニケーション能力も必要になってくる。とりわけコミュニケーション能力については、マーケターに必須である。
もちろん、どんな職種においても必要ではあるが、殊にマーケティングの仕事では、経営者や役員はもちろん、予算を握る経理、実際に施策について関わるチームメンバーや営業、web関連の施策であればシステム部など、事業活動の中心であるが故に多くの人と必然的に意思疎通を図る必要が出てくるからである。
常日頃から多くの関係者と意思疎通をし、ビジョンを示すあるいは施策の結果を共有することで、組織全体の意識改革に寄与する。一人の力には限界がある。だからこそ企業として、組織全体が同じ目標に向かって各々の責務を果たしていくことで、組織としての大きな社会的役割を果たすことができるし、売上の向上にも繋がるのである。
3)まとめ
- 各フェーズの相関関係と施策の因果関係を峻別して理解する
- 商談数を増やすにはできるだけ早くナーチャリングに取り組む
- 現状分析とビジョンの提示をして、認識の擦り合わせをする